ABO式血液型、分泌・非分泌型と蚊の嗜好性について

 

ABO式血液型、分泌・非分泌型と蚊の嗜好性について  

Wood et al.(1972)(当時、イギリスの研究者)は吸血したガンビアハマダラカ(マラリアを媒介する蚊)の腸内の血液を調べたところ、O>B>AB>Aの順であり、ABO式血液型の被験者を好んだと述べており、白井の試験結果は、ヒトスジシマカ(日本で昼間に刺す最も普通の蚊)を用いて、前腕にとまった蚊を調査する方法で同様の結果(O>B>AB>A)を得ており、O型がA型より有意に刺されやすかった。

 Wood(1976)(1976年当時、アメリカの研究者)は、ネッタイシマカ(日本にはいない。東南アジアでデング熱を媒介する蚊)を用いた実験で、Oの分泌型は、O非分泌型よりも刺されやすく、A非分泌型はA分泌型より刺されやすいという報告を行った。一方、これに対して、Thorntonら(1976)は、Wood et al.と同じガンビアハマダラカを用いて、腕にとまる蚊の数で血液型による刺されやすさの違いを検討したところ、「血液型による差は全くなく、分泌型、非分泌型も刺されやすさには、何らの影響も及ぼさなかった。また、Wood(1976)の結果は統計的に誤っている。」とした。そこで、白井は、Oの分泌型が皮膚上に分泌している物質、Aの分泌型が皮膚上に分泌している物質を、皮膚上に塗布して以下に述べるように試験を行った。

 人には、血液型物質が、汗やだ液、精液などに分泌している「分泌型」と分泌していない「非分泌型」があって、その割合は、岸ら(1990)では、非分泌型が全体の24%、山本(1986)では、20%である。白井が59名の被験者の唾液を調査した結果では、11.9%(59名中非分泌型7名)であった。Oの非分泌型は4名であって、このうち2名は、全被験者64名中、刺されやすさでは62番目と63番目であり、非常に刺されにくかったが、そのうちの1名は2番目に刺されやすかった。2番目に刺されやすかった被験者は男性で、腕も大きいという別の蚊誘引要因があったが、この結果からだけでは、Oの非分泌型が刺されにくいとは判断できなかった。

 O型の血液型物質とはH抗原Fucα1-2Gal (Blood Group H Disaccharide)であり、A型の血液型物質とはA抗原GalNAcα1-3(Fucα1-2)Gal (Blood Group A Trisaccharide)であり、B型の血液型物質とはB抗原Galα1-3(Fucα1-2)Gal(Blood Group B Trisaccharide)であって、これらは糖鎖である。分泌型の皮膚上におけるABO式血液型の違いは、これらの糖鎖のみである。そこで、白井はこれらを抗原ごとに前腕に塗布して試験を行ったところ、これらの物質は、誘引性に影響しないと考えられた。白井は、博士論文で「血液型と性格の因果関係については議論されているが、多くのデータをもとに分析すると、確かに何らかの傾向がみられるようであり、O型が刺されやすいとするなどの血液型の蚊誘引性の違いも、性格や体質など他の要因の違いから生じ、血液型と混同して刺されやすさが議論されているにすぎず、蚊が血液型物質の違いを感覚器で感じとって、吸血選択しているのではないと考えられる。血液型物質は不揮発性物質の糖鎖であることからも、皮膚に降着する前に感知はできないと思われる。」と考察している。

 Gupta and Chowdhuri(1980)(インドの研究者)は、マラリアにかかった患者の血液型を調査し、その患者のいる病院の周辺健常住民の血液型の割合と比較したところ、患者の血液型は周辺の健常住民に比べ、A型が有意に多く、O型が有意に少なかった。この調査は、マラリアを媒介するのがハマダラカであることから、蚊はハマダラカ属の蚊であることまでしか分からず、蚊を直接調査した結果ではない。しかしこの報告は間接的に、ハマダラカがA型を好んで吸血したともとれる結果である。論文ではWood et al.(1972)の結果があることを引用した上で、はっきりしたことは不明だと述べるにとどまっている。

白井らは蚊と血液型の嗜好性に関して、2004年、 Journal of Medical Entomology (Entomological Society of America)に次の論文を掲載しました。
Landing Preference of Aedes albopictus (Diptera: Culicidae) on Human Skin Among ABO Blood Groups, Secretors or Nonsecretors,
and ABH Antigens (Yoshikazu Shirai, Hisashi Funada, HIsao Takizawa, Taisuke Seki, Masaaki Morohashi and Kiyoshi Kamimura)

PubMedのAbstractに、概要が記載されています。

 2001年、某番組が、血液型と蚊の嗜好性について、「O型の糖鎖は、花の蜜の糖分と良く似た分子構造をしており、花の蜜と同じく甘いと感じるのでO型を好む」「この糖鎖は皮膚の常在菌により分解されて、飛び、蚊に達する」などのストーリーで番組を構成したようですが、このような流れに至った根拠を示して欲しいところです。まず、吸血行動と、単にエネルギー源として、水や花の蜜を摂取する行動とは異なり、この2つは全く別物です。また、吸血選択は、吸血前に行うものであり、実際に吸血している血液によって、吸血選択するわけではありません。糖鎖は不揮発性で、超低濃度でしか、皮膚上にはなく、糖鎖が飛んで、飛行中の蚊が感じることもあり得ないことと考えます。また、血液型による刺されやすさの実験をして、必ずダントツにO型が刺されやすくなることはありません。テレビ番組はあらかじめ、コンセプト、ストーリー、結論まで決めてから制作していることが多いのを実感しました。取材を受けても、研究者の意図が十分に反映されずに制作されることが多いことを知っていただきたく思います。制作会社が強引に結果に結びつけることも多いと考えます。

「O型の血は花の蜜に近い」という調べ方で来る制作会社があって困るところです。